肥満が病気につながるって本当?病気のもとになる脂肪を解説!

肥満が病気につながる

肥満は多くの病気を引き起こす原因となるもの。ここでは、肥満が病気を引き起こすそのメカニズムについて、解説します。

参考書籍の紹介

このページは、書籍「一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学 (光文社新書)  著者:新谷隆史(初版発行2018/7)」を参考にして作成しています。
この本では、より詳細な根拠やそれを裏付けるデータをもとに「太る」メカニズムとそれを、阻止するアプローチ方法が、非常にわかりやすく説明されています。ご興味を持たれましたら、是非、本書の方をチェックしてくみてください。

内臓脂肪と皮下脂肪のちがい

内臓脂肪と皮下脂肪のちがい

皮下脂肪は腰やお尻、太ももなどの皮膚のすぐ下につく脂肪のことです。女性のほうがつきやすいと言われていますが、これは女性ホルモンの働きによるもの。女性のほうが皮下に中性脂肪を蓄積しやすいことが関係しています。一方、内臓脂肪は胃や腸などの内臓の周りにつく脂肪で、男性に多く、お腹がパンパンに張ったようになります。皮下脂肪はつまむことができるので、どのくらい脂肪がついているのか一目瞭然ですが、内臓脂肪は一見しただけではどのくらいついているのか判断できません。

内臓脂肪量が注目されるようになった背景

肥満について以前は、脂肪がどのくらいあるかという単純な量や脂肪蓄積率だけで判断されていました。しかし、いろいろな症例や研究によって、単純な脂肪の量だけではなく、脂肪の質に問題があるのではないかということが明らかになってきました。相撲取りのように、脂肪の量が多くても糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病にかからない人がいるのに、脂肪の量があまり多くなくても生活習慣病にかかる人が多いことから、脂肪細胞の質に違いがあり、脂肪の質の良し悪しが重視されるようになったのです。

X線CTスキャンが重要な役割を果たした

内臓脂肪と皮下脂肪の質の違いを解明するのに役立ったのは、1980年ごろから広まり始めたX線CT装置、いわゆるCTスキャンと呼ばれる機器による検査です。CTスキャンで、体の断面画像を見ることができるため、皮下脂肪と内臓脂肪を別々に測ることが可能になりました。そして、皮下脂肪が多い「皮下脂肪型肥満」と内臓脂肪が多い「内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)」という2種類の肥満のパターンがあるということがわかってきたのです。

さらに研究が進められると、「内臓脂肪型肥満」のほうが糖尿病や高血圧、脂質異常などの疾患にかかる危険性がかなり高いことがわかりました。つまり、内臓脂肪のほうが皮下脂肪よりも質の良くない脂肪、いわば悪玉の脂肪だということが明らかにされたのです。

腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上あると要注意!

平成20年から始まった特定健診では、おへその辺りの腹囲を測り、内臓脂肪の量を推定します。男性は85cm以上、女性は90cm以上あると要注意。合わせて血圧や血糖値に問題があれば、メタボリックシンドローム予備軍となってしまうので、生活習慣の改善が必要になってくるでしょう。

内臓脂肪が分泌するホルモン、アディポカインには善玉と悪玉がある。

脂肪はホルモンの分泌機器官

脂肪細胞が多くのホルモンを分泌していることがわかったのは1990年代の中頃のこと。脂肪細胞は、体内で占める量が多く、10種類以上のホルモンを分泌していることから、体内最大のホルモン分泌器官であるとされています。

脂肪が分泌するホルモン「アディポカイン」とは

アディポカインは脂肪細胞が分泌するホルモンの総称。アディポカインは血液に乗って運ばれ、体のいろいろな組織や器官に働きかけ、エネルギーの代謝や食欲などをコントロールすると言われています。

増えやすく減りやすい内臓脂肪

内臓脂肪は、体の中のエネルギーが運動や減量で減ってくると素早く消費され、食べ過ぎなどでエネルギーを過剰に摂取すると増加しやすい性質を持っています。さらに、内臓脂肪は中性脂肪の合成と分解両方の能力が高いことから、増えやすく減りやすいと考えられています。

善玉アディポカインと悪玉アディポカインの体への影響

内臓脂肪の持つ増えやすく減りやい性質は、脂肪が分泌するアディポカインの質に大きく関わっています。脂肪量が少ないときは、主に善玉のアディポカインが分泌されており、このホルモンは、臓器の働きを正常に保ち、健康な体を作る役割を果たしているとされています。

一方で、脂肪量が多い肥満状態のときは、悪玉のアディポカインが多く分泌されるようになることがわかっています。悪玉アディポカインは、体の細胞に悪影響を与え、糖尿病や高血圧、脂質異常など生活習慣病の原因になると考えられています。

肥満状態は、内臓脂肪の炎症反応が続いている状態

内臓脂肪が悪玉化する原因は炎症反応

炎症反応とは、体内に侵入した細菌やウィルスを退治するために免疫細胞が活発に働いている状態のことです。免疫細胞は、細菌などの表面の脂質に反応し、活発化します。内臓に脂肪をたっぷり含んだ肥満の状態だと、脂肪の主な成分である脂肪酸が外に漏れだしやすくなっており、これを免疫細胞が間違えて攻撃・活性化し、その結果炎症反応が起こります。そして、この炎症反応が、脂肪細胞を悪玉化させているのではないかと考えられているのです。

肥満は炎症反応が続いた状態

炎症反応によって脂肪細胞の性質が変わり、炎症反応を次々に起こす悪玉のアディポカインを分泌するようになります。そして、たっぷりある脂肪をもとに炎症反応はどんどん進行し、炎症反応が慢性化してしまいます。さらに、慢性化した炎症反応によってますます悪玉のアディポカインが分泌され続けるという悪循環が生じているのです。つまり、肥満状態とは、慢性的に炎症反応が続いている状態といえます。

皮下脂肪、内臓脂肪につぐ第三の脂肪「異所性脂肪」

第三の脂肪「異所性脂肪」とは

「異所性脂肪」とは、細胞組織とは異なる場所に蓄積される中性脂肪のこと。内臓脂肪型肥満は、脂肪細胞が大きくなりすぎると、中性脂肪を貯めておくことができなくなり、脂肪酸とグリセリンを血液中に放出します。

血液に乗った脂肪酸は体中に運ばれ、肝臓や心臓、筋肉などの細胞に取り込まれます。脂肪が不足している場合は、エネルギーとして利用されるのですが、肥満の状態ではエネルギーとして消費されることはなく、中性脂肪として細胞に蓄積されることになります。これが、異所性脂肪と呼ばれるもので、内臓脂肪型肥満で生活習慣病をはじめいろいろな病気が起きる原因の一つと考えられています。

異所性脂肪がいろいろな疾患のもとになる

異所性脂肪がたまると、肝臓や筋肉、心臓や膵臓の機能が低下するとされており、細胞にとって毒のような存在だと言えます。
肥満状態になると体質が大きく変わります。慢性的な炎症反応によって悪玉アディポカインが分泌され、異所性脂肪がたまることで体のいろいろなところで疾患が起きてしまうのです。